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 N0.10  川村奈菜さん(バイオリニスト)     【2016-10-6】
ベルギーの「プロ」に聞く。
今回は、モネのアシスタントコンサートマスターを務める傍ら、Brussels Chamber Orchestra主催、また子どもたちや後進の指導にも力を入れている川村奈菜さんに、お話を伺いました。

【川村奈菜 プロフィール】
東京都出身。全日本学生音楽コンクールに、中学3年で一位入賞。桐朋女子高等学校音楽科を経て、ソリストディプロマコースを修了。辰巳明子氏に師事。1996年日本音楽コンクール第2位、松下賞受賞。1997年よりブリュッセル王立音楽院でイゴール・オイストラフ氏に師事。チャイコフスキーコンクールにて、ディプロマ賞を受賞。現在、王立モネ歌劇場のアシスタントコンサートマスター。ブラッセル・チェンバー・オーケストラを主催。
URL:http://www.brusselschamberorchestra.com/

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スタッフAw(以下、Aw):現在、こうしてブリュッセルで暮らすことになった理由は何ですか?

川村さん(以下K):世界的に有名なオイストラフ氏に師事するため、ブリュッセル王立音楽院に留学したのがきっかけです。その後、フランスのコンセルヴァトワールでも勉強しましたが、ブリュッセル王立音楽院での演奏家たちとの出会いが私の人生を決めたと言っても過言ではありません。その仲間たちが、BCOの前身であるベルギー王立音楽院チェンバーオーケストラのメンバーです。

ブリュッセルは、国際色がとても豊かなので、自分ひとりではないという気持ちにもなりますし、住みやすいですね。働くようになって感じることは、QOL(Quality of Life)が高いということです。子どもがいても自分のキャリアをあきらめる必要はないですし、仕事をしながら子どもと過ごす時間が確保できるのは、とてもありがたいと思っています。

Aw:音楽活動をするにあたり、日本とヨーロッパで大きく違うのはどのような点ですか?

子どもたちのアンサンブル指導をする川村氏
K:日本は音楽活動をすることへのハードルが高いなと思います。コンサートひとつをとっても、会場費だけでなく様々なお金もかかりますし、観に来る方にとっても、都市部まで出かけて高いチケットを購入する必要があります。演奏家として音楽をすること自体は変わらないですし、その意味では日本にもレベルの高い演奏家はたくさんいますが、音楽をすること、聞くことのハードルの低さを考えると、ヨーロッパではもっと庶民に音楽が根付いていると感じることが多いです。

Aw:音楽的な視点では、ブリュッセルのどのような点に魅力を感じていらっしゃいますか?

K:自由奔放、という言葉が思い浮かびます。ベルギー人そのものが自由なのかもしれませんが。良い意味で型にはまらず、悪い意味で型を無視することが多いですね。でも、本人たちはそれに気づいていない。自然に自由にやっているように思います。例えば、ドイツ人の弾くバッハは型を重んじる部分があり、バッハは「こういう風に弾かなければ」というものを学びますが、ここでは自由に弾くことができます。その辺は、少しフランス的かもしれません。

Aw:主催されているBCOの活動についてお聞かせください。

K:BCOは18年前、ブリュッセル王立音楽院で学んでいた弦楽器仲間が集まって始めたものです。当時のベルギー王立音楽院は非常にレベルが高く、学長のサポートもあってBCOは活発に活動していました。指揮者のいない11人のチェンバーオケという編成は、世界的にも例は多くありません。

年に3~4回、ブリュッセル中心部の教会で、コンサートを行っています。日本と異なり、ヨーロッパでは本当に小さなサロンのような場で、小規模な音楽会がたくさん行われています。私たちとしても、年に3~4回、「あの教会に行けばBCOが演奏している」と思っていただけるような、ブリュッセルという地に根付いたものにしていきたいと考えています。


5月に行われた、ガブリエル・リプキン氏を招いてのコンサート (写真左より2人目)

Aw:著名なソリストとの共演も多いと伺っています。

K:BCOは、「一流」と言われるソリストとの共演の機会に恵まれてきました。クラシックに限らずジャズやタンゴなど、多様なジャンルに挑戦しています。これまでの共演者では、例えばバイオリニストのギトリスとは何度も共演させていただきましたし、最近ではチェリストのガブリエル・リプキン、今年度は若手チェリストのデイヴィッド・コーエンや、ロンティボー国際コンクールやエリザベート国際コンクールで2位受賞の経歴を持つ若手のバイオリニスト、成田達輝さんとの共演が決まっています。

こうしたソリストとの共演でこだわっているのは、音楽的レベルも高く、「一緒に音楽を作り上げることが出きる」方をお招きするということです。別の言い方をすれば、「自分達が一緒に弾きたい、聞きたい、面白そうだ」と思える相手であるかどうか、です。私たちBCOの個性や音楽性に共鳴する人、音楽を一緒に作り上げていこう、という気持ちがある人との出会いによって、私たち自身も大きく飛躍を遂げることができてきたと思います。

Aw:BCOのコンサートで大切にしていることは何でしょうか。

K:演奏者としてBCOで演奏することは、大きなオケで弾くときや、ソロで弾くときとは全く違う脳の使い方をしていると思います。音楽を皆で作り上げていく工程、やり取りの面白さ、そして出来上がったものへの満足感、アンサンブルをした後の達成感(サティスファクション)は、何物にも代えがたいものです。また、私が主だった役割をしていることもあり、自分の好みに染められる、という面白さもあります。

一方、最少人数のオーケストラとして、非常に難しいことをやっています。チェンバーオーケストラで通常行う、3人で一つの音を演奏するのは、とても難しいのです。2人で一つの音を弾くと、バランスもとりやすい。6人で弾けば一つの音に聞こえる。ですが3人だと、1人はどう弾いて分からないようになる。とても難しい挑戦なのです。それは、たまたま始めて気づいた面白さでした。

また11人編成のチェンバーオーケストラとなると、レパートリーが限られるため、最近は頻繁に編曲したものを演奏しています。夫でBCOのアート・ディレクターでありチェリストのマリオ・ヴィリエンダスが主に編曲を手掛けていますが、リサイタルプログラムをオーケストラ編成で弾いたり、100人規模のシンフォニーオーケストラでやるものを11人で弾いたり、といった実験的なことを行っています。ベートーベンのソナタをクインテットにして演奏したこともありますし、先日は、サンサーンスのチェロコンチェルトを11人編成で演奏しました。昔、アメリカでドビュッシーのピアノ曲を演奏した際には、“No piano, no problem.” とアメリカの新聞に書かれたこともあります。

こうした取り組みでは、否応なくクリエイティビティーが求められ、それを作り上げる過程が非常に面白いです。バイオリンのソリストと一緒に演奏できる曲は限られているので、これからもどんどん編曲をして、ピアノのリサイタルプログラムをチェンバーオーケストラの編成で弾く、などの挑戦をしていきたいです。

Aw:今後の抱負についてお聞かせください。

K:数年前までは、ブリュッセルで弾く機会は少なく、海外や地方での公演が多かったのですが、それではなかなか自分たちのコンサートにならない、という思いがありました。世界での活動は、もちろん今後もどんどん行っていきますが、地元で、自分のやりたい音楽を1年に4回発信する。その拠点として、ブリュッセルでの演奏があり、そこで存分に自分たちの音楽をすることがとても大切だと考えています。

これまでも、補助金や寄付金で活動していますが、ヨーロッパの景気が悪い中、芸術関連の予算がどんどん削られており、厳しい面はたくさんあります。しかしお金ではなく、自分の音楽をする場があること、個性を出せること、非常にピュアな音楽性を要求される場があることは、音楽家として最も大事なことだと考えています。

ですので、おそらく将来も私たちはずっと、BCOとしてあの教会で演奏活動を続けていると思います。インターナショナルなメンバーでありながら、ヨーロッパならではのスタイルで、ヨーロッパの伝統を守る演奏会を続けていくことへの理解を広めていきたい、という思いを持っています。

 


 

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