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連載:人ありき
作り手から“美味しさ”の秘密お届けします。                       【2012-10-9】
No.5 ひと夏の思い出 <前編>
稲刈り公園や歩道にはベルギーの秋の風物詩であるマロニエ(栃の木)の実があちこちに転がりだしています。そんな中ふと夏帰省した日本のことを思い出します。

この時期実家の方では壮大な山並みを背に稲穂の金のじゅうたんが豊かに広がっています。そんな風景も、もうそろそろ終りを迎えています。

実るほど頭をたれる稲穂かな
私の故郷では今頃、稲の刈り入れ真最中。今年も豊作であってほしいと願います。秋本番を迎える前に、そっとひと夏の思い出を振り返ってみたいと思います。

7月の始めに日本へ。ベルギーからヘルシンキ経由で15時間程かけて日本に到着。長旅の疲れはピークを達しこのぐらいが限界。それなのに、最後の元気を振り絞って電車を乗り継いで更に2時間程掛けて実家に向かいます。電車で揺られていると次第に景色が山里へと変化し、そのうち鮮やかな色を放った山並みと清流風景が目に飛び込んできます。いつも体感する事なのですがある場所を境に肩の力がすっと抜けて体が軽くなります。駅に迎えに来てくれた母の車に乗り込んで実家へ。

到着後まず一番にご先祖様に手を合わせ、その後、母の畑を覗きます。今年も楽しみに畑へ行ってみると、今年は例年よりも種類が増え小さな畑にびっしりと野菜が育っています!夏大根、にんじん、ジャガイモ、セロリに水なす、長なす、トマト、きゅうり、キャベツ、万願寺唐辛子やしし唐、ピーマン、長ねぎ、レタス、かぼちゃ、にがうり、おくら、にら、ブルーベリー、青シソ、バジリコ、ペパーミント、カモミール等など。母は今も現役の美容師74歳。美容院をやりながら昨年から祖母を引き取り介護も加わったのに畑は一段と実多くなっている。見るからに痩せ細り弱々しく見える母なのにどこからこんな力が湧いてくるのだろう。日本に滞在する数週間は母の愛情と大地の恵みをたっぷり受けて育った野菜をいただいて一年分のエネルギーを補充します。キッチンに隣接する畑からもぎたての野菜を採ってきてその都度調理をするのですが、今年も又野菜の美味しさ、力強い味わいに感動させられました。

御姥様の水実家も今では簡易水道に変わりましたが、どの家も昔から飲料水としてきた谷からの湧き水の水道がそのままになっていて普段は畑の野菜やお花の水遣り、収穫後の野菜を洗ったり洗車など夏には麦茶やスイカを冷やしたり鮎の生け簀に使用したりと一年中活用します。岐阜は清水の里と言われ実家のすぐ傍にも日本の名水百選に数えられる“姥ノ神神社”の境内から湧き出る“御姥様の水”と呼ばれる湧き水があります。暑い中、家事の合間に息子と一緒にここまで水を汲みに行くのも楽しみの一つで、汲みたての水はびっくりするほどひんやり冷たく甘味があります。自宅の谷水の水道水は大雨が降ると濁ってしまうのですがここの御姥様の水はどんな大雨が降ろうとも一切濁ることがないのです。太陽にかざして見ても何の不純物も入っていない綺麗に澄んだ清水です。地元の人のみならず時折、レストランや料亭の方達がここの湧き水を汲みに来ていたりもしています。飲料水としては勿論のこと料理や緑茶・紅茶・コーヒー等を淹れたり、夏には氷にして母手作りの梅ジュースに浮かべて飲むのは最高です。

数日後、息子と二人京都へ。
お寺や仏像、お庭などをゆっくりと眺めて過ごしながら京都の味を楽しむのがいつもの定番ですが今年は京都の暮らしに少し触れてみょうと言う想いがあって、ある方を訪ねました。京都初日、京都駅からJR山陰線に乗り換え終点の園部に向かいました。

山口 豊さん園部駅まで私達を迎えに来てくださっていた方は、山口 豊さん72歳。織元・株式会社山口織物を継ぐ2代目の豊さんは、京都西陣で撚糸・精錬・製織・草木染、多岐分野にわたる絹業のコーディネーターとして、幅広く連携し絹織物を製作してこられました。第62回伊勢神宮式年遷宮の月讀宮御料「青瀕瀕綿御衣」(あおこうけちわたのみぞ)の「帛」の製織に携わるなど、これまで新蚕品種を用いての製品づくりなど先進的な技で多くの業績を残しておられます。

お父様の山口安次郎さんは草木染めの絹糸で織る帯や内掛けを手がける名工であり能衣装や唐織物の第一人者であり晩年は江戸時代の能装束の復元に力を注がれました。

その安次郎さんの兄の山口伊太郎さんは織物による「源氏物語錦織絵巻」を30年もの歳月をかけて制作し寄贈された方です。

兄の伊太郎さんは2007年、安次郎さんは2010年に共に105歳で他界されています。
私は3年ほど前にご縁があってパリのギメ東洋美術館で伊太郎さんの作品を拝見したのがきっかけで山口豊さんとお知り合いになりました。2年前の京都旅行中に葛きりの美味しい名店“鍵善良房”で葛きりをご馳走になりながら自己紹介をしたのが最初の出会い。その後今年の春にご夫婦でベルギーに旅行に来られた際に家に寄っていただきました。

その日はイギリスの素朴なお菓子コッツウォールドアップルケーキをベルギー産のカシス風味に仕立て、焼きたてを用意してお待ちしていました。扉を開けると目の前に豊さんが満面の笑顔で立っておられて、その笑顔にドキッとさせられました。程よく冷めた食べ頃を嬉しそうに召し上がるお二人の様子を拝見していると自分の両親の姿と重なり親近感が湧きました。その時は食材の話で大変盛り上がり豊さんが畑で野菜を作っていること鶏を飼育していることなどお話してもらいました。

鶏の飼育場山口家ではお孫さんに七転八倒しながら鶏を絞める様子からさばき方、鶏の部位を丁寧に説明し感謝の気持ちを持って食すと言う一部始終を見せているというのです。これはとても貴重な課外授業だと思いました。何故なら、子供の大好物のから揚げも鶏から作られていることを知らないで食べている子供や魚がどんな姿をしているのかを知らない小学生が存在する時代だからです。いつか豊さんの畑を見に行きたいなという気持ちが膨らんで、もしかしたらあの笑顔の秘密が見られるかも知れないなとそんな予感がしました。ご夫婦が日本に帰国され暫くしてからお手紙が届きました。

長く生きてこられたお二人から私に書かれた内容はまるで娘に送る優しい励ましの応援歌の様でありました。私はその手紙に励まされ幾度も読み返しました。

(次回、後編へと続きます。)

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小野島ゆかり 【著者: 小野島 ゆかり、パティシエール】
日本の菓子屋で修行をし、ホテルのパティスリー立ち上げからシェフを経験後、1997年に渡白。ブルッセル市内の菓子屋に従事。その後、結婚・出産を経て2002年よりフレンチレストランでパティシエールとして活躍。2009年末、新たなステージを目指してレストランを退職。現在はお菓子教室を開催しながら次のステップの為の充電中。得意なお菓子は、季節の果物を使ったデザート風アントルメ。愛知県名古屋市内の「”Le chapon fin” Les entremets Français」の野畑氏を師匠に持つ。

(ベル通でのインタビュー記事はこちらからご覧ください。)

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